女性バーテンダー kasumi ~オークランド編~
★ はじめに ★
ニュージーランドと聞いてまず最初に思い浮かぶのは、大自然、羊、キウイでしょうか。旅行は勿論、留学やワーキングホリデーでも大変人気のある国です。ニュージーランド最大の都市オークランドには全人口のおよそ30%の約150万人が住み、その内の約40%が海外出身者という多種性あふれる街です。ここではそんな街で活躍する日本人女性バーテンダーを紹介します。
★ クイーンストリート ★
潮風を感じることができるどこかのんびりとした街オークランド。豊かな自然に囲まれ、多種多様な人々が暮らしています。世界の住みやすい街ランキングでも常に上位にランクインしています。そんな街の中心部を南北に走るクイーンストリートは、お洒落なカフェやショップは勿論、シティホールや教会など歴史的な建物も立ち並ぶメインストリートです。クリスマスのサンタパレードをはじめ様々なイベントが開催され1年を通して賑わっています。
★ 癒しのパブ ★
この活気あるクイーンストリートに、毎晩地元の人たちで賑わうパブがあります。その名も「QF TAV」、QFはQueen's Ferryの略、TAVはTAVERNの略でPUBの起源でもあるローマ時代に繁栄した街道沿いの飲食店のことです。英国パブ文化が浸透しているオークランドには多くのパブがありますが、クイーンストリートにお店を構えるのはこの一店のみです。夜になると昼間の目立たなさとは打って変わってきらびやかな姿に変貌し、多くの人々が癒しや救い、そして楽しみを求めて訪れます。
★ 安全について ★
ここで一つ注意を。ニュージーランドは治安が良いと思われがちですが、あながちそうとも言い切れません。近年の不動産価格の異常な高騰で路上生活者も増えており、格差の拡大がさまざまな問題を引き起こしています。どんな街でも言えることですが、昼と夜では街の表情はがらりと変わります。昼は比較的安全なクイーンストリートですが、夜には日本人がひったくりにあったり、暴行される事件も発生しています。日本とは違うことを肝に銘じて行動しましょう。また、パブでは常に所持品から目を離さないようにし、喧嘩に巻き込まれないよう注意しましょう。その他、安全対策の詳細については在オークランド日本国総領事館のウェブサイトを参考にしてみてください。
★ 地元の人と楽しもう! ★
因みにオークランドには約1万人の日本人が暮らしていますが、観光ガイドにもあまり紹介されていないこのパブに日本人が訪れることはほとんどありません。地元の人で賑わう夜のパブは怖いイメージがあるかもしれませんが、せっかくニュージーランドに来たのだから観光地だけではなく、地元の人たちとの交流も楽しみましょう。ワーホリなら尚更です。
★ 日本人の女性バーテンダー ★
このパブを切り盛りする女性バーテンダーを紹介します。この店唯一の日本人、そして女性であるkasumiです。独特なユーモアセンスと明るい笑顔で地元の人たちからは勿論、同業者たちからも一目置かれる女性バーテンダーです。一人歩きはお薦めできないちょっぴり危険な夜の街の、日本人がほとんど訪れることのないローカルのパブで、酔っぱらった大男たちを相手に日々奮闘しています。
★ 厳しいバーテンダーの世界 ★
日本では女性のバーテンダーも増えてきていますが、海外で日本人の女性がバーテンダーになることは決して容易なことではありません。バーテンダーとしての経験や知識以前に、言葉、文化、人種、性別など大きな壁がたくさん立ちはだかっているからです。そして何よりもパブのバーテンダーは人間としての魅力、カリスマ性を持ち合わせていなければなりません。この仕事には長い歴史と大きな尊厳があるのです。
実際、日本のブリティッシュパブとアイリッシュパブで経験を積んでいたkasumiも、オークランドでバーテンダーの仕事を得るのには相当苦労したそうです。履歴書を3度も提出するも全く相手にされず、しつこくお店に通って直接マネージャーに「仕事が欲しい」と訴え続け、ようやく仕事を得ることができたそうです。熱い気持ちは言葉以上に伝わるのかもしれません。
★ 日本とは全く異なる世界 ★
日本のバーと言えば、黒いベストに蝶ネクタイのバーテンダーがかっこよくシェーカーを振ってカラフルなカクテルを調合し、客は(実際には何が入っているかよく分からない)お酒をまるで料理評論家のように味わいうんちくを語る。キザなセリフで女性を口説くも失敗し、帰りの会計時には高額な請求にびっくり!なんてことも。ちょっとお高くて、堅苦しいという印象を持っている方も多いと思います。一方、ここQF TAVはその正反対の場所と言えます。まさにジェリー・ブラッカイマー製作の映画「コヨーテ・アグリー」に出てくるバーのイメージです。百聞は一見に如かず、是非一度映画をご覧ください。下は予告編です。
★ 人生を楽しむ ★
ここQF TAVではカラフルなカクテルやワインを飲む人はほとんどいません。ビールあるいは強い酒をショットで飲む人が大半です。これぞ荒くれ者、男の酒?です。お酒をじっくりと味わうというより、会話を楽しみ、みんなで思い切り盛り上がる、そんな場です。勿論ゲストにおごられればバーテンダーも一緒にお酒を飲みます。チップをはずめば更に素敵なパフォーマンスを見せてくれます。
★ パブはみんなの家 ★
パブとはパブリック・ハウスの略で「公共の家」、分かりやすく言うと「みんなの家」です。人種も貧富の差も関係なくみんなが平等に楽しめる場なのです。肌の色も、襟の色も関係ありません。そこにあるのはゲストが守るべきたった一つのルール「他人に迷惑をかけないこと」です。暴力をふるったり、女性に対して下品な話をしたりすることは最も許されないことです。バーテンダーは時に用心棒として、ルールを守らない者に毅然とした態度で忠告したり、凶暴化した酔っ払いに退店を命じたりします。常にわずかな動きも見逃さず、ゲストがくつろぎ楽しめる雰囲気を壊さないよう努めています。どんなに立て込んでいても注文の順番を間違わず、客の些細な会話も聞き逃さない、それが「みんなの家」のホスト、バーテンダーなのです。
パブの楽しみ方は人それぞれですが、ここではスポーツ観戦、ライブ、DJミュージック、カラオケナイトなどイベントも盛りだくさんなので自然にみんなが一体となって楽しむことができます。
★ 日本とは違うバーテンダーの役割 ★
パブは「みんなの家」が故、そこでは様々な文化、価値観が衝突します。時にその衝突が新しいものを生み出すこともありますが、誰もが熱くなるスポーツ観戦やライブ、歩くスペースもないほど混み合っている時には、小さな衝突が大きな喧嘩へと発展することもあります。屈強なセキュリティと一緒に喧嘩を制止し、流血したゲストに応急手当を行うのもバーテンダーの仕事です。腕力のない女性にはきつい仕事です。
★ バーテンダーはバレリーナのごとく ★
バーテンダーはエンターテイナーとしての役割も担います。誰もがパブに入ってまず最初に見るのはバーテンダーではないでしょうか。まるでバレリーナのようなしなやかな身のこなしで10人分のお酒を作りながら、みんなの不平を聞き、時々冗談を交え笑わせる。バーテンダーの立ち振る舞いは常に注目されています。
★ 自由がある! ★
パブは誰にとっても居心地の良いところでなければなりません。自由なコミュニティであり、地域住民にとって大切な寄り合いどころなのです。人々のコミュニティの場がネットへとシフトしていく今、心の通うリアルなコミュニケーションを提供する数少ない場所なのかもしれません。ここでは誰でもすぐに友達になって語り合うことができます。銀座やホテルにある高級なバーとは異なり、ここではみんなが開けっ広げで、人生を楽しみ、自分らしく過ごします。歌ったり、踊ったり、大声で笑ったり、泣いたり、…自由なのです。
★ 酒は人生の友 ★
最後にお酒にまつわる好きな名言を2つ。
神はわれわれを愛し、われわれに幸せになることを求めている。ビールがその証拠である。(ベンジャミン・フランクリン)
酒は人類にとって最大の敵かもしれない。だが聖書はこう言っている、「汝の敵を愛せよ」と。(フランク・シナトラ)
これでお酒を飲むことへの罪悪感が少しはなくなったでしょうか。 さあ、パブへ行って人生を楽しみましょう。(2018年5月 ひまじん)
★ 女性バーテンダー kasumi のプロフィール ★
柴田花純 法政大学卒業。大学で「まちづくり」について学ぶ中、コミュニティというソフト面の重要性を痛感し英国パブ文化に興味を持つ。卒論ではパブとコミュニティについて研究、大学4年の夏から1年間日本のブリティッシュパブ、アイリッシュパブで修行し、単身オークランドに乗り込む。現在地域に愛される女性バーテンダーとして活躍中。趣味はダンス。5歳からバレエを学び、高校でバトン、大学でチアを経験。
サイト 女性バーテンダー kasumi ~オークランド編~ より。
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